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就活生が就活情報をインプットしてくるなか、総合広告会社とデジタルエージェンシーの違いや、博報堂DYグループ内でも立ち位置がどう違うのかなど、業界で働くセンパイですら俯瞰してしっかりと捉えるのは難しいのが現状です。
また、世の中のデジタル化に伴い、各社のメッセージが似てきていて、違いが分からない側面もあります。果たしてどういう人材が最初で最後の新卒カードを切って、今のアイレップに入社すると良いのでしょうか。
広告・マーケティング業界に特化して3,000人以上のキャリアコンサルティングを担当したホールハートの野崎大輔(白メガネ)が、お話をうかがいました。
テクノロジーの進化で業界はどう変化したのか?
野崎 大輔(のざき だいすけ)株式会社ホールハート コンサルタント/スペシャリスト
デジタル時代で10年後も勝ち続けるキャリア設計を支援する白メガネ。転職/副業/就活/イベント企画を横断したコンサルティングに従事。リクルートの人材ビジネス、アイレップなどを経て現職。デジタル知見を活かしたマッチングが得意。趣味は面接同席。
野崎早速ですが、アイレップのキーマンたちをヒアリングしながら、就活生のみなさんにとって参考になる点を探っていきたいと思います。 私の古巣でもあり、とても楽しみにしていました。まず、マーケティング市場のお話から聞かせてください。
野崎コンビニで小銭を使わなくなったり、電話番号を交換しなくても通話できたり、身の回りのあらゆるものがデジタル化している世の中ですが、デジタルエージェンシーにて事業を推進する立場として、広告やコミュニケーションのあり方はどのように変わってきていますか?
北爪宏彰(きたづめ ひろあき)株式会社アイレップ 取締役
東京大学在籍時の起業経験を経て、博報堂入社。2006年より博報堂全社のデジタル改革組織に参画。2010年よりHarvard Business School留学、2011年修了、アルムナイ資格取得。米国MarketShare社を経て、2013年よりアイレップに参画。マーケティング統括室長、コーポレートコミュニケーション本部長を経て、2018年取締役に就任。現在、メディア領域、プランニング領域、クリエイティブ領域、アドテク領域を管掌。
北爪さんいい質問ですね。10年前はスマートフォンもほぼ普及しておらず、パソコンで検索してもテキストの広告が出るだけでした。
しかし、今はほとんどの人がスマホを持つようになって、通信インフラも飛躍的によくなっていることから、動画を中心にさまざまな広告のかたちが発明されています。
スマホでも自分に関心のある広告が視認性高く表示されたり、お店の近くを通りかかったらクーポンを受け取ることができたりしますよね。動画の環境も急速に整備が進んでいます。
YouTubeは勿論ですが、トレインチャンネルやタクシーアドなど屋外広告も3割がデジタルサイネージ化してきていて、デジタルマーケティングができることがどんどん増えています。
野崎具体的に、クライアント企業から求められることはどのように変わってきていますか?
北爪さんクライアントにもよりますが、新しい商品・サービスが出てそれを必要とする人に届ける、というマーケティングの目的自体は変わっていません。
ただ、「時代が変わってきているなかで、今までと同じやり方でいいんだっけ?」という疑問は当然浮かんできます。あるシンクタンクの調査によれば、ここ2~3年以内にマーケティングのやり方を従来の延長線上ではなく、抜本的に変革したい、と考えているクライアントの数は3割に上るそうです。
具体的に話しましょう。昔からあるナショナルクライアントとよばれるメーカー系企業の中には、これまでやってきたテレビCM中心のマーケティングから、「一旦テレビ抜き、全部デジタルマーケティングで考えてみよう」という大胆な発想に転換する企業がでてきています。
一方、最近新しく誕生したスタートアップや、インターネット関連企業は逆で、デジタルマーケティングだけでの限界を感じ、どうすればテレビCMを中心としたオフラインのマーケティング投資を戦略的に活用できるかに発想が大転換してきています。
北爪さんどちらも今の時代に合った、そして何よりもクライアント企業の戦略に合った変革ですよね。
ただ、そのときに鍵となるのは「効果計測」です。デジタルであってもYouTubeやTwitter、Instagramのような認知系の施策はこれまでみたいに売上に直結する指標で管理ができないので費用対効果がよくわからない、という課題がありました。
さらにそれがオフラインのテレビCMになるとなおさら売上に対する費用対効果の計測が難しく、なかなかそこが進化していないんですね。
ただ、アイレップでは、最近データをきちんと統合的に管理して、分析をすることで、認知系の投資が最終的にどういう成果につながっているかを、確証の高い相関関係で示せる、ということがわかってきたので、それを打ち出すようになりました。
野崎スマホを中心にインターネットに接続して、世の中のあらゆるデータが繋がってくる時代になるにつれ、直接的に購入や資料請求に至らない興味喚起の動画広告なども、売上や会員獲得にどう寄与したのか可視化できるようになってきているということですね。
昔からロジカルにデータを使って成果に向き合ってきたアイレップにとっては追い風ですね。
北爪さんその通りです。デジタルを起点に、プランニングできる領域がすごく広がっています。
野崎私が在籍していた2010年代前半のアイレップは職人型のコンサルタントが個々のスキルで戦うことを得意としている会社でしたが、総合広告会社やコンサルティング会社と戦う職域が似てきていますよね。
原麻子(はら あさこ)株式会社アイレップ 人事Unit 執行役員
2007年にアイレップへ新卒入社。アカウントプランナーとして、主に大型クライアントに向けたSEM領域の広告運用を担当。アイレップ大阪営業所、博報堂DYメディアパートナーズ出向を経て、2016年に人事本部へ異動。現在は人事領域の執行役員として、デジタル時代のクライアントビジネス拡大に貢献し、社員自身にとっても有意義なキャリアを積んでいける会社づくりを目指し、日々業務に従事している。
原さんそうですね。私はアイレップに新卒で入社し、会社の変化を中から見てきたのですが、かつてのアイレップは広告運用の技術により競合と差別化が図られていた時代がありました。
総合広告会社が担当する本当に最後のデジタル施策部分だけ、アイレップに依頼がくることもあったくらいです。ただ、そうではなくなった時に何を武器にするか?という問いに対して、会社としても向き合ってきました。
デジタルの領域で長くノウハウを培ってきたアイレップにとって、デジタル時代におけるコミュニケーションシナリオをつくれることは、圧倒的な強みであると考えています。
生活者がさまざまな行動をデジタル上で行い、オフラインとオンラインをまたがって行動しているので、デジタル施策に限らず提案できる幅が広がっています。
野崎生活者がオフラインとオンラインを行き来しながら行動していても、効果測定をするのはデータなので、デジタルエージェンシー側から全体のプランニングをした方が有利な可能性もありますよね。
北爪さんはい、テレビCMなどは「どんな効果があったのか?」を計測するのは難しいといわれてきました。
ただ昨年のアドテック東京で発表した「科学するTVCM」が、テレビCMに慣れたクライアント企業や総合広告会社からみても、結構面白いとか、そこまで徹底的にやっているのが目からうろこだと言われ、あっ結構いけるな(笑)という手ごたえをかんじはじめています。
通常はテレビCMを放送したときは、そのブランドを認知する人が何パーセント増えるとか、そのブランドのことをイメージがこう変わるといった態度変容で効果をみますが、アイレップでは実際にテレビCMがどう売上に直結する行動に繋がっているのかを実数でみましょう、という提案をしています。
テレビCMが放送されたとき、その一本一本のCMがどう売上や売上に直結する指標につながっているか、をリアルタイムで紐付けて評価できるような手法を開発しているんです。
やっていることは総合広告会社に近いところがあっても、施策に対しての意味の持たせ方や評価の仕方が違っていて、クライアントの最終目的に対して成果を明確に説明できるのはすごく可能性があるのかな、と考えています
アイレップがたどってきた歴史
野崎ここまでのお話しは、
・デジタルマーケティングができることが時代の変化に伴い広がっている
・データをもとにデジタル起点で全体プランニングができることが強み
ということでした。
ここからは、ますます「デジタル」と「オフライン」が融合していくなかで、どのように戦っていくのか?を、①2010年頃まで ②2010年代 ③2020年以降 で分解しながら理解を深めたいと思います。
最初に伺いたいのは、2010年くらいまでのまだテクノロジーが進歩しておらず、職人技のスキルで戦ってきた時代でしょうか。当時のことを教えてください。
原さんスマホが一気に広まったのが2011年の東日本大震災以降なので、当時の主流はまだPCとガラケーでした。
そこからスマホが出てソーシャルメディアが出て、ユーザーのスマホ内での過ごし方が変わっていったのが2010~2019年で、ユーザーがクライアント企業の商品やサービスに出会う場所が変わっていった結果、戦い方を変えていかなくてはならない時代になりました。
アイレップ社内で言うと、2010年前後までは本当にひとりひとりが広告運用の技術に精通し、職人技でどう戦ったら競合に検索連動型広告の入札で勝てるのかを競っていたので、個がすごく立っていたし、属人化していました。
野崎私も在籍していたときなので、懐かしいですね。現在のアイレップの姿とは異なりますが、学生とコミュニケーションしていると、当時のイメージが残ってインプットされているケースもあると感じます。
北爪さんたしかにそういう時代もありました。
ただ、最近は戦略やプランニング、クリエイティブこそが自分たちの付加価値になっていかなければと、動画のチームも新設し、アイレップに元々いた人だけではなく、総合広告会社の人やテレビディレクター経験を持った人が集まっています。
井上さん、いまCDUのチームは何人くらいですか?
井上孝恵(いのうえ たかえ)
株式会社アイレップ コミュニケーションデザインUnit Division manager
2006年グループ会社であるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに入社。アドテク領域を担当後、メディア担当として新聞社、出版社、放送局を中心としたマスメディアのデジタル領域に携わる。2018年にアイレップへ出向し、広報・マーケティング領域を担当。2019年4月に現職であるコミュニケーションデザインUnitのDivision managerへ就任し、テレビCM制作からコミュニケーションデザイン設計まで、クリエイティブの領域を幅広く統括する。
井上さん40人くらいで、その内30人が制作チーム、10人が戦略を考えてプランニングをするチームになっていますね。でも、3年ぐらい前は3人からスタートしたんです。
野崎3年で10倍以上。それだけ力を入れていて、需要もあるということですね。CDUについてもう少し詳しく教えてください。
井上さんCDUは大きく2つに分かれています。テレビCMからYouTubeなどの動画のマーケティングを行うチームと、SNS周りの動画クリエイティブや、オウンドメディアのコンテンツ制作、SNSと連携してどのように大きくしていくかを目指すチームです。
私はそのチームのマネージャーとして動いているんですが、CDUが扱う業務は特にここ1年で爆発的に増えています。
野崎2010年代に入って、テクノロジーの進化に伴い、仕組化・自動化で職人ではなくとも一定の成果が出せるようになってきた一方、競合との差別化が難しくなった。
その流れを受けてここ数年は改めてレベルの高いクリエイティブが大事になってきて、クリエイティブチームを増強して、対応できる体制をつくっているということですね。
博報堂DYグループ内のアイレップの立ち位置
北爪さん2010年くらいからの10年、こういった変化をしてきてなかったら、アイレップは勝ち上がってこられなかったと思います。
原さんだから、すごく変化し続けています。アイレップはそのときから博報堂DYグループと連携しながら、いろいろ模索して変わってこられたんです。
北爪さん少し歴史を紐解くと、アイレップは、2002年にGoogleアドワーズ広告の日本第1号認定代理店となって以来、ずっとクライアント企業のSEMにおける課題解決に務めてきました。
特に2006年に博報堂DYグループの仲間入りをしてからは、独立会社としての業務のほか、博報堂DYグループ内の広告会社の先にいらっしゃるクライアント企業のSEMサポートも行なって大きくなってきました。
しかし、2016年からはアイレップはクライアント企業との直接業務のみにフォーカスすることになり、グループの力も借りながら、ディスプレイ領域、ソーシャル領域、動画領域を強化し、デジタル領域でのフルサービスエージェンシーになるべくプランニングやクリエイティブへの投資を強化しました。
そして一昨年2018年10月に博報堂DYホールディングスによる子会社化を経てからは、デジタルだけでなくオフラインまでをも視野に入れたマーケティング全体の提案ができる立ち位置へと進化してきたんです。
野崎わかりやすいです。アイレップは、ホールディングスの中でも唯一の次世代型デジタルエージェンシーということですね。DACや博報堂DYメディアパートナーズと連携しながら、マス広告のプランニングもする流れがくるのでしょうか。
井上さんはい、増えてくると思います。「テレビで認知をつくって、ネットで購入や会員登録をさせるんでしょ」っていう固定概念が長らく続いてきましたが、ここがたぶんもうすぐ変わると考えています。
井上さんいま色々なところで「最初にネットでじわーっとした認知をつくっておいて、最後にテレビで刈り取る」と言われはじめています。
だからテレビはやっぱり4番バッターですが、その前にネットでちゃんと情報を入れておいて、1番、2番、3番が出塁しておいて、それで最後にテレビでバンと訴求するようなやり方が、今後は当たり前になってくると思っています。
野崎野球ネタ大好きです。テレビを視聴している時間が減るとプランニングが変わるのは当たり前ですよね。でも、やっぱりテレビは4番という中心的な存在なんですね。
井上さんやっぱりテレビは安心感があります。例えば自分が車を買ったときにその車のテレビCMを観ると、「やっぱ買って良かったな!」って思ったりするんです。
野崎時代の流れとともにメディアとの接触時間がどんどんデジタルに流れていく一方、全体的な広告予算が大きく増加していないとなると、デジタルバックグラウンドのアイレップにとっては追い風ですね。
次世代型デジタルエージェンシーの可能性
野崎博報堂DYグループだからこその強みはありますか?
北爪さん従来のデジタルエージェンシーと次世代型デジタルエージェンシーの違いは、「どこまで既成概念にとらわれずに、あらゆる手段を中立で考えて最高の課題解決法を考えられるか?」です。デジタルだけでもダメですし、伝統的な「マス広告」だけでも違います。
僕らが今後発展していく方向性は、【アイレップと総合広告会社のいい組み合わせ】なんです。
その点でアイレップは、博報堂DYグループとしてのバックボーンも含めて、「アイレップだからこそ」の他社さんとの大きな違いを出せると思います。
野崎デジタルエージェンシーが次世代型になっていこうとしたら、総合広告会社の良いところを取り入れていかなければいけない。
博報堂DYグループであるアイレップは、これまでのデジタルとオフラインの枠を超えて、あらゆるマーケティング手法を中立な立場で取り入れたデジタルエージェンシーなのですね。
そんなことができる会社はとても限られますから、数あるデジタルエージェンシーの中でも、次世代型デジタルエージェンシーになっていける可能性がある会社は限られますね。
後編の「デジタル化した現代にあるべきキャリアとは?次世代型デジタルエージェンシーアイレップで求められる人材像に迫る~キーマンインタビュー」では、実施の事例も含めてさらに聞いてみたいと思います。